金融・投資、財政破綻、少子高齢化、健康長寿、観光・文化 ~日本の課題と将来展望をリサーチ~
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日本の財政は2030年まで耐えられるか

日本経済 金融・投資、財政破綻

金融・投資、財政破綻
~日本の財政は2030年まで耐えられるか~

総論

日本の国債発行残高は2018年3月末時点で959兆円となり、政府短期証券などを併せた国の借金は1,087兆円となっている。地方自治体などの債務を加えた日本の総債務残高は対GDP比で230%を超えており、先進国の中でも突出した規模である。

さらに、2013年4月に開始した量的・質的金融緩和(QQE)により日銀の総資産は500兆円を超え、2018年には名目国内総生産(GDP)で100%を超えてきた。

デフレ脱却を目指して開始した量的・金融緩和の効果もあり、円安、株高、不動産価格の上昇という景気浮揚の成果はあったが、目標としていた2%の物価上昇は達成できていない。

将来の歳出・歳入見通しについても、税収の大きな伸びが見込めない中、社会保障関連予算が高齢化の進展で一層厳しくなり、国債発行に依存する予算編成にならざる得ない状況である。

将来、国債への信認が崩れ金利上昇局面が来た時に日銀は耐えることができるのだろうか。日銀が資産として保有している低金利の国債と日銀の負債にあたる当座預金とに間に逆ザヤが発生した場合、日銀は債務超過に陥る可能性もあり、金融機関の収益の悪化とともに、異次元緩和に対する負の側面が次第に顕在化しつつある。

 

日本の財政問題を検討するうえで重要なのは、今後の経常収支と海外の金融・経済状況に対する見通しをどう捉えるかによるだろう。今のところ日本の経常収支は黒字であり、日銀も実質的なステルステーパリング(隠れた量的質的緩和の減速)として財政赤字分の40兆円程度の国債購入を続けていけば当面の混乱は避けられる。一部エコノミストの中にはすぐにも日本国債が破綻しハイパーインフレになるような論調も見られるが現実的な話ではない。巨艦が沈みゆく時はじっくりと時間がかけ、最後はスピードを上げて沈んでいくように日本の財政もそのような航跡を辿ることが予測される。

 

JFCジャパン・フューチャー・リサーチ調査部では、基本的に2025年あたりまでは、日銀が国債を購入していくことで金利も安定化させることができるが、2025年以降は日銀が国債購入によって金利を抑えることが難しくなると考えている。団塊世代が後期高齢者(75歳)となる2025年以降、日本の財政に対する信認が揺らぎ始め、国民一人ひとりが外貨への選好を高め、円資産からドル・金資産へのキャピタルフライトが始まると考えている。すでに金融機関や富裕層などは外貨資産へのシフトを始めており、政府・日銀も国内の金融機関が国債暴落時に多大な損害を被らないように、日銀自ら国債を大量購入し、いずれ確実に訪れる財政破綻のXデーに備えているのではないかと穿った見方もできるほどに日本の財政は傷んできているのである。

 

以下は、JFCジャパン・フューチャー・リサーチの調査部が予測する財政破綻のメインシナリオである。

 

 

メインシナリオ

Ⅰ 2025年まで日本国債の暴落はない

実質的な財政ファイナンスとして日銀が国債購入を続けるため、2025年までに国債が暴落することはない。

 

Ⅱ 日銀は年間80兆円の国債購入枠を下げていくステルステーパリングを継続 

日銀は年間80兆円の国債購入を続けて今以上に総資産を増大させていくことは難しいことから、財政赤字をカバーする最低ラインの40兆円程度の国債購入を継続する。

 

Ⅲ 国民負担の増大、資産の把握強化

相続税の負担範囲の拡大、消費税引き上げ、社会保険料負担増など、財産権の侵害を行わない範囲で静かに徴収しやすいところから徴税するとともに、国内外の国民資産の把握の強化を図る。

 

Ⅳ 2025年前後を境にキャピタルフライトが社会的潮流となる

   社会保障費の増大とともに、世界的な景気サイクルからくる不況もあり日本の経常収支が赤字となり、財政破綻への懸念から、法人のキャンキャピタルフライトが顕著になり、やがて個人のキャピタルフライトへと移行し、円安傾向が強くなる。

※為替相場は、金利差、インフレ率、経常収支など様々な要因で形成される特性があり、一時的な円高ののち急激な円安が進むなど、予測不可能であるが急激な変動があることが予想される。

 

Ⅴ 円安の進行とともに、国内物価上昇率が2%を超えてくる

2025年前後からの円安により、諸物価が上昇し、賃金が上がらずに物価だけが上昇していくスタグフレーションが起こる。政府は円資産のキャピタルフライトを抑えるため、以下のような措置を実施する。

・海外送金の限度額引き下げの拡充、身分証明(マイナンバー)の一層の厳格化

・外貨預金、FXでの円売り規制(取引限度額の設定、FX倍率の引き下げ等)、

・金融所得の源泉徴収課税に対する課税強化(20%から50%程度まで段階的に引上げる) など

 

Ⅵ 日銀の債務超過懸念、金利上昇、悪性インフレ

   2030年前後に、円安の進行から、日銀も国債の寡占的購入による金利上昇を抑えることが難しくなる。日銀当座預金の超過準備に対する付利をマイナスにするなどを試み、債務超過になることを防ごうとするが、最終的に市場金利の上昇圧力の高まりにより逆ザヤが進行することで債務超過になる。

 

Ⅶ 急激な金利上昇、円安、インフレにより政府の緊急財政再建策が発動される

金融面では預金封鎖、新円切替えに準じた対策が取られ、財政的には資産課税の強化が図られる。特に世界的に潮流となっているキャッシュレス化の中で、中央銀行による世界発のデジタル通貨「日銀デジタル通貨」の発行などの政策が考えられる。その際に、旧円との交換比率を1:1ではなく1:0.8にするなどの対策を講じることも考えられる。実行すれば、円の著しい減価となり、発表と同時に急激な円安が進んでいくことが予想される。しかし「日銀デジタル通貨」の発行は世界に先駆けて新しいイノベーションを生む可能性もあり検討に値する方法である。

 

Ⅷ 結論~日本が財政破綻することはない。しかし急激な非連続的な変化が訪れる~

日本の今現在行われている異次元金融緩和は、実質的には日銀による財政ファイナンスそのものであると言える。それは先の2度にわたる世界大戦で日本やドイツが経験してきたように、最終的には急激なインフレと国民生活の困窮へと至る可能性が高い。

日銀はすでに後戻りできない状況にまで資産を過大に膨らませるおり、2%のインフレ率達成の如何を問わず、異次元金融緩和を続けざるを得なくなっている。アメリカ連邦準備理事会(FRB)のように出口戦略に舵を切り慎重に資産の縮小に着手した中央銀行と異なり、日銀の国債購入により肥大化した資産構成は極めて脆弱であり、日銀が国債購入を続けなければ、いつ国債価格し金利が急上昇して日銀自身が債務超過になってもおかしくない状況となっている。

戦後のような預金封鎖、新円切り替え、財産税などの措置がとられないまでも、政府は、量的・質的金融緩和政策、リフレ政策を採用した段階から、公言できないがインフレによる政府債務削減を意図したと考えられる。年2%のインフレを確保でき成長戦略により潜在成長率が高まっていればその可能性もあったのかもしれない。しかし、現時点では後戻りできない悪路に踏み込んでしまったと言わざるを得ない。