金融・投資、財政破綻、少子高齢化、健康長寿、観光・文化 ~日本の課題と将来展望をリサーチ~
Japan Future Research

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2020年は円安か円高か

財政破綻 金融・投資、財政破綻

2020年は円安か円高か 経済を占う

総論

外国為替を形成する要因として重要なものは、①貿易収支を含む経常収支 ②インフレ率 ③経済成長率 ④中央銀行の金融政策 ⑤世界の政治・経済情勢 ⑥国の信用力(財政状況、人口、軍事力など) である。

2020年に向けて、外国為替にもっとも影響力を与える要因は、①~③の経済の潜在的な要因以上に、④中央銀行の金融政策 ⑤米中貿易摩擦、中東情勢等の世界の政治・経済情勢 であると考えている。

リーマンショックの金融危機を防ぐため、アメリカ連邦準備理事会(FRB)、日銀、欧州中央銀行(ECB)などの中央銀行が揃って大規模な金融緩和を行い、中国では4兆元(当時の為替レートで約57兆円)もの公共投資を実施し、世界的な恐慌に陥るのを防いだ。100年に一度といわれた金融危機もアメリカ、日本、EU各国の中央銀行の量的金融緩和により、現在では落ち着いた状況となっている。

日本では、2013年4月から2%の物価上昇を目標とするいわゆる「異次元緩和」として量的・質的金融緩和(QQE)が開始され、国債などの買い入れによるマネタリーベースの増加が図られ、2014年10月には、年間約80兆円を上限とする資産買い入れを行う追加緩和が実施された。これらの金融緩和により、円安・株高が進行する一方、これ以上の国債購入が日銀による実質的な財政ファイナンスとして日本国債の信用が棄損されるのではないかという懸念が広がっている。

アメリカFRBがすでに量的金融緩和を終え、金利正常化に向け利上げを継続し、EUも量的金融緩和を2018年内に終了しつつある現在、日銀の現在の政策は金融正常化に向けては周回遅れとなっており、円安を促す要因となっている。

 

JFCジャパン・フューチャー・リサーチ調査部では、日本の財政問題への懸念はあるものの、2020年までの為替動向を見通した場合、日本の経常収支の黒字や日銀の量的・質的金融緩和継続が見込まれる中、円の急落といったパニック的な売りは発生しないと予測している。決して楽観的に日本の財政を見ている訳ではないが、2020年頃までは日本の経常黒字と日銀の国債買い入れ(実質的な財政ファイナンス)の継続により、1ドル105円~115円の範囲で動くのではないかと予想している。

2019年に入り、欧米の金融正常化が進展する中、日銀の総資産の膨張が将来の債務超過に至るのではないかといった懸念や、国内金融機関への悪影響を考慮し、金融緩和の縮小(テーパリング)を日銀がアナウンスすることがあれば、一時的に110円を超える円高になることが予測される。また、米中貿易摩擦やブレグジットなどの政治・経済的な要因で世界経済が大きく下押しした場合にも、リスク回避の円高になる可能性がある。

 

以下は、JFCジャパン・フューチャー・リサーチの調査部が2020年までの為替相場のメインシナリオとして想定しているものである。

 

Ⅰ 世界の景気後退懸念によるFRBの金利引き上げペースの緩和ないしは利上げ打ち止めによる円高

日本の貿易収支、特に海外子会社などからの配当による経常収支の黒字がある現在、FRBが金利上昇をやめれば、日米の金利差は縮小し、投機筋を中心にドルを売って円を買う動きが強まるだろう。

 

Ⅱ 日銀の量的・質的金融緩和の後退による円高

日銀はすでに大量の国債を抱え、その資産規模は2018年10月時点において対GDPで100%を超えるに至っている。このような状況下で、日銀は国債購入額の目安として掲げてきた年間80兆円の購入が難しくなってきており、2018年6月末時点の年間購入額は約43兆円に縮小し、密かに金曜緩和の縮小(ステルステーパリング)を行っている。2019年において日銀が量的・質的金融緩和の縮小を発表する可能性があることから、先読みした投機筋が金融緩和の終了を予知して円を買ってくる局面があることを予測している。

 

Ⅲ 2020年の東京オリンピックに向けた訪日観光の増加による円高

訪日客の増加により、一層の旅行収支の改善が見込まれる中、円相場に対する需要も発生し、円高傾向になると予測している。

 

Ⅳ 海外発の政治経済情勢の悪化による円高

米中貿易摩擦による世界経済の下押し、ヨーロッパにおける英国のEU離脱、イタリアの財政懸念など、世界の政治経済情勢が一時的に悪化する懸念があり、対外資産を有し経常黒字国の日本円に対する信認もまだ健在であり、政治経済による金融不安の時には円高になる可能性が強い。

 

Ⅴ 円の終焉~円高の持続性はない~

2020年までを俯瞰して予測すると、ドル円相場は多少上下にオーバーシュートすることはあり得るが、1ドル105円~115円の範囲で動くのではないかと予測している。

但し、継続的な円高という歴史はすでに幕を閉じ、2025年から2030年の間に日本の財政は危機に瀕し、一定程度のインフレを許容せざる得ない状況に置かれると予測している。

すでに政府・日銀は、デフレ脱却という名目の下、円の価値の下落による国債の負担軽減を図っていると思われる。しかし、この穏やかなインフレ誘導は最終的には失敗に終わり、日本の財政、国民の生活に甚大なマイナスの影響を与える状況が進んでいくと予測している。

実際の為替変動を予想することは極めて難しいが、2020年前後までに円高の局面があるとしてもその持続性は弱く、円の終焉を迎える前の静寂の期間ではないかと懸念している。